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受賞の田中信行さん、武藤裕之さん。山口研究科長と。

第33回「租税資料館賞」を受賞
本研究科修了の田中信行さん、武藤裕之さんが、第33回「租税資料館賞」を受賞いたしました。
https://www.sozeishiryokan.or.jp/

田中 信行 稿「組織再編税制における課税繰延と欠損金の引継ぎに関する研究―『支配の継続』概念の整合性及び課税繰延要件と欠損金引継要件の混同の問題を中心として―」

武藤 裕之 稿「交際費課税制度の研究―福利厚生費の論点を中心として―」

「租税資料館賞」とは
公益財団法人租税資料館が、租税理論、租税制度、租税法、会計理論及び税務の執行に関する研究に関して優れた著書及び論文に対して、毎年「租税資料館賞」として表彰を行っているものです。
受賞者紹介
田中 信行
田中 信行
2024年 税務マネジメントプログラム キャリアデザイン・コース修了。

修了後、現在は税理士法人に勤務中。

武藤 裕之
武藤 裕之
2024年 税務マネジメントプログラム キャリアデザイン・コース修了。
受賞者インタビューインタビューアー:大城 隼人 特任准教授(指導教員)
論文の新規性や独自性を追究したことが受賞につながった
大城

このたびは租税資料館賞の受賞、誠におめでとうございます。二人の論文ともに、とても素晴らしい出来でした。教職員一同とても喜ばしく思っております。

武藤

ありがとうございます。ご指導いただきました大城先生をはじめ、講義でご協力いただいた先生方、近くで見守ってくれた家族など、皆さんのおかげで受賞することができました。

田中

ありがとうございます。大城先生がいつも気にかけて下さったこともあり、実務経験がない私でも論文を書き上げることができました。

大城

論文はテーマ選定から大変なことも多かったのではないでしょうか。どのような経緯でテーマを決めていかれたのですか?

武藤

私は交際費課税制度をテーマに論文を執筆しました。昨今リモートワークが普及し、従来の働き方が変化しています。Web3への移行によりデジタル社会も変わりつつあります。このような中で、現実空間と仮想空間で生じた費用は福利厚生費として捉えることができるのか、もしくは交際費として否認されるのかという点が主な研究テーマです。ゼネコンで働いていた経験があるのですが、当時から交際費は身近な費用であったこともこのテーマを選んだひとつのきっかけです。

田中

私は「組織再編税制における課税繰延と欠損金の引継ぎに関する研究」というタイトルで、組織再編税制をテーマに論文を執筆しました。コロナ禍で業績が悪化した企業も多い中、組織再編税制における欠損金の取扱いは大きな注目を集めています。特に「組織再編(M&A)による欠損金の移転とその制限」の在り方については、かの有名なヤフー事件を筆頭とした租税訴訟、或いは国税不服審判所の裁決に至るケースも少なくなかったので、何らかの制度の欠缺があるのではないかという問題意識のもと、研究をスタートしました。また「大学院ではより困難な議題に挑戦したい」という思いがあったため、特に難しいとされていた組織再編税制をテーマに選びました。

大城

時流に沿ったテーマ性や新たな着眼点に基づいた独自の論理展開が、お二人の今回の受賞につながったと感じています。お二人は、どのような理由から、このテーマや論点を選ばれたのでしょうか。また、論文を書き進める上で大変だったことはありますか?

田中

「欠損金の移転とその制限」については、課税当局と納税者との間で解釈の相違が争われる租税訴訟として顕著にその制度の問題点を浮き彫りにします。ゆえに、すでに多くの学者や実務家によって研究・議論が行われてきたことから、それらの先行研究を網羅するだけの論文にならないように心がけました。また、大学卒業後すぐに大学院に入学した私には実務経験がなかったため、現場ではどういったことが課題なのかという部分が見えにくく、論文を執筆する上で説得力に欠ける部分や実務とのズレなどが生じていました。そうした点について、大城先生をはじめとした指導教授にご指摘いただくことにより、現場の視点を意識しながら論文を書き進められたと思っています。

武藤

会計プロフェッション研究科を受験する時点で、交際費課税制度について研究することは決めていました。交際費課税制度も先行研究が非常に多い分野ですから、先生方からは新規性や独創性があるかどうかを厳しく問われたこともありました。

丁寧に資料にあたることで、
税制の本質的な理解を深めていった
大城

どのようなことに心がけながら論文を書き進めていかれましたか?

田中

ある先生から、「専門誌に書かれていることは氷山の一角であり、それを読んでわかった気になってはいけない」と教えていただきました。多くの専門雑誌等は基礎理論を熟知している専門家に向けて書かれているため、記述も簡潔ですし、制度の背景等についても少ししか触れられていないことがほとんどです。一方で、難解な租税事件をかみ砕いて説明してくれていることも多いので、手始めに読み始める程度にして、まずはなどの制度創設当初の資料を丁寧にあたり、基礎理論の定着および理解に努めました。
税制改正は毎年行われているので、資料を集める際には抜けや漏れがないように丁寧に資料を集めていきました。組織再編税制は平成13年度に創設されており、約20年前から現在に至るまで、丹念に資料を集めて地道にたどっていく作業が必要です。今回はアメリカの税制と日本の税制を比較しながら執筆したので、その点でも資料が膨大になりました。
論文については、ゼミでは先行論文を100冊以上参考文献として入れ込むように指導されました。膨大な量ではありますが、それだけの数の文献を読み込むことにより、税制の全体の流れや制度趣旨、論点などが見えてきたと思います。

武藤

論文を書くにあたって、まずは「交際費とは何か」という本質的な問いを立てることから始めました。加えて全体の構成を立て、仮説を立てた上で仮説を検証していくという流れをとりました。交際費課税制度は70年以上続く制度で、納税者と課税庁の見解の相違が大きい費用の一つです。そのため、仮説を検証するにあたっては全体の理解に加え、税制が創設されてから現在に至るまでの経緯への本質的な理解が不可欠です。
加えて、交際費は経済事象との関係性が高く、「景気が悪いと交際費が落ちる」とよく言われます。一般的に言われていることがデータと照合して正しいのかどうかの検証も必要です。丁寧に文献を読み解き、理解を積み重ねて検証を行うことを特に心がけていました。
会計プロフェッション研究科では「考える会計学」を掲げています。この「常に考える」という姿勢は論文執筆時にも非常に役立ちました。「なぜ自分がこのテーマの論文を書くのか」という問いかけを常に行いながら論文を組み立てていきました。問いに答えるための作業は厳しいものではありましたが、そのおかげで論文に深みが出せたと思っています。

講義と論文は、どちらが欠けても成り立たない
大城

会計専門職大学院は修得単位数が多く大変な面もあったと思いますが、論文を執筆するにあたり、どのような点を活かしていったのでしょうか。

武藤

講義は課題も多く、学んだつど消化していかないと後々きつくなるので、滞りのないように学んだことを落とし込んでいくのは大変ではありました。ただ、講義自体は興味のある内容のものが多かったので、その点で困難を感じたことはありません。
講義も論文も、どの時期に何が必要になるかはあらかじめ決まっています。論文であれば、1年生の終わりの時に中間の報告が、2年生の冬前ぐらいに中間の審査があり、その後に最終の審査が行われます。中間テストや期末テストも時期や必要な学習があらかじめ見えていますから、そこから逆算してタスク化していきました。予習復習を習慣化することにより、テストまでに何をすればいいのかをパズルのピースを当てはめていくような感じで進めていきました。

田中

講義内容は論文執筆をする上で知識として重なる部分も多かったので、個人的には「両立しなければならないもの」という意識はありませんでした。むしろ講義で学んだことを論文にも活かすという姿勢で講義に臨んでいました。
税務マネジメントプログラムでは租税法や管理会計、経営学を中心に履修しますが、会計や監査、職業倫理などの講義も必修科目となっています。それは、将来職業専門家として活動する際に欠かせない知識を習得するという意図があってのことだと考えます。

大城

最後に、これから会計や税務の論文を執筆する方にメッセージをお願いします。

武藤

修士論文は2年間かけて大学院で研究してきた成果ですが、学んできた内容を唯一文書化して表現できるところでもあると思っています。時には論文と向き合うことが辛いこともあるかもしれませんし、論理的な筋道を立てられずに悩むこともあるかもしれません。ただ、そんなときこそ自分と向きあい、成長できる良い機会でもあります。実務でも活躍できるだけの実力と考え方を両方学べる会計プロフェッション研究科での経験は、論文を書く上でも非常に役立つはずです。ぜひ頑張ってください。

田中

私は大学院に入学する際、「この2年間は人生で一番勉強したと思える2年間にする」と決意して入学しました。同じような意気込みで入ってくる方にとって、切磋琢磨しながら学ぶことができる会計プロフェッション研究科は非常に環境が整っていると思います。学生生活を楽しみたいという気持ちもあるかとは思いますが、職業専門家として働く上では何が必要なのかということを常に考えながら、充実した学生生活を送ってほしいと思います。

大城

これからのお二人のご活躍を心より祈念しております。本日は、ありがとうございました。

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