青山学院大学大学院 会計プロフェッション研究科 GSPA
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教員リレーエッセイ Vol.13(2023.10.20)

インボイス制度とものの見方について
―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―

青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科特任教授
望月文夫

はじめに
 2023(令和5)年10月1日、日本の消費税の仕入税額控除の方式としてインボイス制度(正確には、「適格請求書保存方式」という。)が導入される。インボイス制度においては、仕入税額控除の要件として、原則、インボイス発行事業者(こちらも、正確には「適格請求書発行事業者」という。)から交付を受けた適格請求書の保存が必要になる。
 そして、相手方から交付を受けた請求書等がインボイスに該当することを客観的に確認できるよう、インボイス発行事業者の情報については、「国税庁適格請求書発行事業者公表サイト」において公表される。
 このように、インボイス制度とは、仕入税額控除を適切に行うためのインフラと理解することができる。
 以下、消費税のインボイス制度に基づいて、ものの見方について私見を述べていきたい。

1 消費税導入とインボイス制度の不採用
 消費税は、戦後の欧州において、付加価値税として導入されたことにより、その後世界中に広まることになった。日本において、高度経済成長の終焉と2度にわたる石油ショックを受けて大型消費税の導入が本格的に検討された。当時、物品税や砂糖消費税などの個別消費税はあったものの、課税対象が限定されることによる不公平が指摘されるとともに、高齢化社会の到来に伴う歳入確保の必要性が叫ばれていたことによる。
 そこで、大平内閣(一般消費税)と中曽根内閣(売上税)が大型消費税の導入を試みたが、多くの国民や産業界からの反対によって導入には至らなかった。その後、1988(昭和63)年12月24日、竹下内閣によって消費税法案が国会で可決された。そこに至るまで、様々な政治的駆け引きがあった。消費税による増税よりも多額な所得税と法人税の減額が代表的なものである。一方、インボイス制度は中小企業への事務負担が過重であるとして取り下げられ、代わりに帳簿方式が採用されることになったことはあまり知られていない。
 帳簿方式とは、帳簿又は請求書に消費税額を記載することによって仕入税額控除ができるという方式を意味する。この帳簿方式は、その後、帳簿又は請求書に消費税額を記載することから、帳簿及び請求書に消費税額を記載することに変更され、現在まで継続している。
 このように、日本においては消費税の導入に際して、中小企業への配慮により、インボイス制度の導入が見送られた。

2 インボイス制度は国際標準
 日本の消費税は、1989(平成元)年4月より導入された。当時、バブル経済真っ只中であり、日本は世界のGDPの約15パーセントを占める経済大国であった。現在の中国と同じような存在感であり、諸外国は日本の一挙手一投足に注目していた。
 筆者は、消費税導入時、国税庁で国際業務を担当する部署に勤務し、外国税務職員と接する機会があった。当時は、インターネットはなかったものの、日本が消費税を導入したこと、そして、その概要についてまたたく間に世界中の税務関係者の知るところとなった。
 そのような中、筆者は複数の外国税務職員から、「なぜ、日本の消費税はインボイス制度を採用しなかったのか。」、「(当時の)帳簿方式では執行が適切にできないではないか。」、「日本の消費税制度は骨抜きではないか。」など、インボイス制度が採用されないことについて、たくさんの批判を直接聞くことになった。これに対して、筆者は、「日本では反対論が激しく、消費税を導入することだけで精一杯だった。」といった言い訳をせざるを得なかったが、外国税務職員がなぜ、あんなにムキになったのかわからなかった。
 しかし、筆者は彼らの真意を少しずつ理解できるようになっていった。要するに、請求書や帳簿を保存しているからといって、それだけで仕入税額控除を認める国はないということだ。つまり、当時の日本の仕入税額控除の方法である帳簿方式は、国際標準とは異なる日本独特の制度だったということである。

3 現在の方式が適切かどうかはわからない
 インボイス制度は、取引の正確な消費税額と消費税率を把握することを目的としている。そして、日本以外の国の消費税で採用される普通の制度である。また、事業上の取引において消費税の正確性を維持する以外にも、経理業務や消費税納税に関わる不正やミスの防止を図ることもできる。このようなインボイス制度の長所は広く知れ渡っているとは言えない。
 インボイス制度の導入に反対している人は、「インボイス制度は弱いものイジメだ」、「今までの制度のままで良いではないか」と言っているようだ。確かに、インボイス制度を導入することで、これまで免税事業者だった人が課税事業者に変わる場合もあり、負担が増える場合もある。
 これに関して、筆者は「インボイス制度は当初から採用すべきだったが、諸般の事情により採用できなかった」ことを強調しておきたい。消費税は、日本では反対論が強い。だから、仕入税額控除方式として不適切な帳簿方式を採用せざるを得なかった。しかし、不適切な制度をいつまでも持ち続けていくことはできない。
 筆者は、最近、世界各国の消費税の状況についてインターネットを使って調べてみた。それによると、日本の消費税に相当する一般消費税は170以上の国で導入されているが、日本のような帳簿方式を採用している国は見当たらなかった。そして、ほとんどの国においてインボイスをデジタル化していること、デジタルインボイスの国際標準化が進んでいることを確認することができた。世界は、インボイス制度を当たり前の制度とした上で、さらに前に進んでいる。

おわりに
 本稿では、消費税のインボイス制度がそもそも最初から導入されるべきだったことに基づいて、現在あるものが必ずしも正しいとは限らないことを述べた。何事にも言えると思うが、現在目にしているものは完全なものに見えるかもしれない。しかし、調べていけば、本来あるべきもの、またはもっといいものがほかにあるかもしれない。インボイス制度に限らず、客観的に長所と短所を見比べて、最善のものを作り上げていくことが重要ではないか。

望月 文夫(もちづき ふみお) 青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科特任教授。
明治大学法学部卒業、明治大学大学院経営学研究科経営学専攻博士後期課程修了、博士(経営学)。
国税庁で25年間勤務の後、上武大学教授などを経て2021年4月より現職。他に税理士(松岡・大江・伊勢税理士法人)、東京税理士会会員相談室相談委員、BPカストロール株式会社社外取締役(監査等委員)、一般社団法人企業研究会研究協力委員など。

国際租税法との出逢い
―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―

青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科 特任教授
大城 隼人

 国際租税法についてはまだ確立した定義は存在せず、一般的に、国際租税法、国際課税、国際税務と言われています。国際租税法とは国際取引に対する法をいい、実体法及び手続法が含まれるとされています。これらは、主として各国の国内法であるが、二国間租税上条約、及びEU等多数国間租税条約などの国際法も含むとされています。現代の国際租税法には、単なる課税権の競合の調整を超えて、国際的な脱税及び租税回避の防止に関する国内法及び国際法が含まれています。国際取引とは国境を越えて行われる取引(経済活動)をいい、貿易、投資、融資、技術移転、サービス提供をいいます。近年においては、デジタル化が進展しており簡単に国境を越えてしまうケースが増えてきているのが現状であり、課題でもあります。
 国際租税法の目的は、主に、①国際的二重課税の排除、②課税原則の修正、③国際的な脱税及び租税回避の防止、④国際的な課税秩序の確立からなります。
 少し難しい文章の入りになりましたが、これらの会計・税務の需要は多くあるにもかかわらず人材が不足しているというのが今回のメッセージになります。
 データの側面から見ていくとコロナ(COVID-19)期間中であったにもかかわらず、日本の対内直接投資(財務省・令和3年度)とみると、27,057億円、対外直接投資は161,100億円となっています。対外証券投資(2020令和2年度)は、172,462億円、対内証券投資は、128,546億円となっています。ここでわかるのは、多くの外国マネー、日本のマネー、人、企業が投資交流・人的交流、税の助言を求めているのがわかります。また、対外資産負債残高では、巨額のマネーの管理が税の助言を求めていることもわかります。
 外国人登録者を見てみると、2,760,635人(法務省・2021年)、日本人出国者数は、277,944人(法務省・2022年7月)となっています。国際租税法の知識が必要な理由として、「日本への申告」、「外国への申告」と対処が求められるところです。単に申告だけでなく、税のアドバイザーとしても重要な役割を担うことがいえます。
 法人の海外進出については、経済産業省「海外事業活動基本調査」(2022年7月調査)によると現地法人数は2万5,325社、現地法人従業者数は569万人、現地法人の売上高は303.2兆円となっています。
 税理士法では、税に関する業務は、独占業務として保護されています。しかし、税務会計、申告相談、経営相談、金融相談、税務・法務相談等の問題に対処していかなくてはならないところです。インバウンド課税(国内課税)、アウトバウンド課税(外国課税)と依頼は多くあるところです。
 近年においては、インターネットにおける検索やSNSでのノウハウビジネスの指南も加わり、一般の方も事前に勉強してきます。そのため、人によっては、「保険をかける」意味での租税専門家の意見を求める時代がきているといえます。
 上記で述べたように、国際租税法は、非常に難しい分野かと思います。しかし、対処していかなくてはいけないのがプロとしての役割です。  簡単な例をあげてみますと、源泉徴収税、留守宅手当、海外出向、帰国、個人輸入、投資、資産運用、為替、暗号資産、オンライン賭博、相続、遺産財団等、法人であれば、海外進出、撤退、事業再編、国際租税回避防止規定への対応等があります。全部一筋縄ではいかない論点ばかりです。
 これらも、一つのきっかけかと思います。通常の税務でお目にかかれない場合もあります。場合によっては、遭遇する可能性もあります。もしかしたらそれは、千載一遇のチャンスに際会する機会かもしれません。
 国際租税法の分野は「理論と実務」の両方の知識や経験が必要ではないのかなと思います。私の場合は、きっかけは人との出逢いだったと思います。
 私の場合、人生の中で2つの出逢いが大きかったといえます。出逢いにも人、モノ、金、情報とそれぞれあります。「出会う」が偶然、もしくは約束してであうことを意味し、「出逢う」が、運命的、宿命的、偶然を意味します。
 私の場合は、(1)学会で多くの先生方と出逢えたこと、(2)指導教授である故・本庄資名誉教授(名古屋経済大学)との出逢いが人生を決定づけたと言えます。
 (1)について、大学生の時に税理士を目指し、簿記・会計を学び、税法へと分野のシフトチェンジを行うところに、たまたま母校が学会の開催校になりました。有名な先生方と会うことができ、𠮟咤激励をもらい、とても嬉しかった記憶があります。しかし、当時の学会は殺伐としていて、怖い先生もいました。若手からみるととても怖かったです。月日が経つと怖かった人の文献を読み漁り理論武装して実力をつけていった気がします。ちゃんと理論が身についたときに、怖かった先生方が尊敬できる人になりました。直接・間接問わずに多くの先生方から学究とは何かを教えていただいた気がします。
 (2)について、当時学会に足を踏み入れた所、自分の分野がないことに気づきました。模索していた時に、雑誌論文で本庄先生が国際租税法の第一人者であることを知り、門を叩きました。そこが人生の分岐点でした。先生の人柄に惚れ、本庄先生の考えていた理論に人生全てかけて学んでいきたいと思える人でした。今振り返れば変な学生だったと思います。先生の講義、博士後期課程の授業、修士課程1・2年生のゼミ(聴講)と何年も参加し、講演も全国どこでも参加していました。大学院修了後も、先生が亡くなるまで「先生、先生」だった気がします。
 故に深く、今は賜った恩を惜しみもなく学生に教授することを心がけ指導しているところです。
 多くの会計・税務のプロフェッションが誕生し、クライアントを正しい方向へ導いていってもらいたいところです。
 皆さんにとってより良い出逢いがあることを心より祈念しております。

大城 隼人(おおしろ はやと) 青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科特任准教授。
名古屋経済大学大学院法学研究科博士後期課程修了 博士(法学)、税理士。
大学で会計・税法の講義を担当し、国際税務及び移転価格税制を中心に研究。大手税理士法人において、移転価格・国際税務アドバイザリー業務に従事(マネージャー)。2022年9月より現職。
著書・論文と多数執筆。

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