青山学院大学大学院 会計プロフェッション研究科 GSPA
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教員リレーエッセイ Vol.9(2019.10.10)

独立した人という生き方
―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―

青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科 准教授
牟禮 恵美子

・独立性とは
 監査論の授業で、まず初めに教えるのは、監査人の独立性である。
 それは、監査が社会から信頼を受けるとともに実効性ある監査を行ううえで、監査を行う人(監査人)にとって、なくてはならない要件だからである。監査人の独立性には、精神的独立性と外観的独立性の2つの側面がある。監査基準では、「監査人は、監査を行うに当たって、常に公正不偏の態度を保持し、独立の立場を損なう利害や独立の立場に疑いを招く外観を有してはならない。」と規定されており、前半が精神的独立性を、後半が外観的独立性を示したものとされている。
 精神的独立性とは、実質的独立性ともよばれるもので、監査人に、公正で、客観的で、偏りなく判断を行うことを求めるものであり、監査人の心の状態についての要請である。この要請がなければ、経営者の意向に添った判断を下してしまうことで、実効性ある監査が実施されないおそれがある。また、外観的独立性は、監査対象となっている会社との間に、身分的・経済的な利害関係がないことを求めるものである。これは、そのような関係があると、社会の人は、監査人が公正な判断を行えないのではないかという印象をもってしまうことで、監査の信頼性が揺らいでしまうことを防止するために要請されるものである。さらに、外観的独立性によって利害関係を排除することで、公正不偏な精神状態が揺らいでしまうのを未然に防止するという役割も担っている。外観的独立性の具体的な要請内容は、公認会計士法や施行令、さらには、公認会計士協会の倫理規則などにおいてかなり詳細に定められているため、監査人は外観的独立性については常に意識することになるのである。

・公認会計士の特質
 公認会計士とは、2つの独立性をもった人達であるが、このような職業上の要請は日常の生き方にも少なからず影響を与えているのではないかと思われる。つまり、独立性ということを意識せざるをえない公認会計士には、自然とそのような特質が身に付いているように思えるのである。もちろん個人差はあるものの、公認会計士個人にとっての独立性の状態を、精神的な面と経済的な面で考えてみるとおもしろいのではないだろうか。
 このうち、分かりやすいのは経済的な面である。普通に、公認会計士として仕事をしていれば、経済的にもある程度は恵まれているといえるだろう。このため、経済的に誰かに依存するということは必要なくなる。もちろん、特定の会計事務所や企業に属していれば、そこに対する経済的な依存は生じるが、独立した資格をもっているので、その関係にそれほど執着することもないだろう。このように、経済的に自立できるということは、精神的な面にも少なからず影響を及ぼすだろう。ちなみに、「自立」とは、広辞苑では、「他の援助や支配を受けず、自分の力で判断したり身を立てたりすること。ひとりだち。」と説明されており、経済的な面だけでなく、自分の力で判断するという精神的な意味も含まれている。また、同じ「じりつ」でも「自律」になると、
①  自分の行為を主体的に規制すること。外部からの支配や制御から脱して、自身の立てた規範に従って行動すること。

② (哲)ア、カントの倫理学において根本をなす観念。すなわち実践理性が理性以外の外的権威や自然的欲望には拘束されず、自ら普遍的道徳法則を立ててこれに従うこと。
イ、一般に、何らかの文化領域が他のものの手段でなく、それ自体のうちに独立の目的・意義・価値を持つこと。

と、哲学的な意味も含まれてきて、こちらの自律の方が、精神面での意味を多く持つようになる。会計士としての仕事の場面では、全て自身の規範に従うというわけにはいかないだろうが、それが普遍的なものであれば、自身の中に立てた規範が会計士として求められる規範に近づいていくのかもしれない。これを、個人の生活面で考えると、主体的に行動するために、自分の中に普遍的な規範を持っているということになるだろう。
 経済的にも自立し、自身の中に、普遍的な規範をもって主体的に行動し、外部からの干渉を受けないというのが、公認会計士個人としての理想的な生き方といえるのかもしれない。

・幸福の決定要素
 国連が毎年行っている、世界幸福度報告書では、日本の主観的幸福度が毎年低いとされている。一般的に幸福度は、所得や人間関係などによって決まるとされているが、所得水準はある程度上昇すると幸福度を上げないともいわれている。ところで、昨年、独立行政法人経済産業研究所のプロジェクトチームが日本全国の 20 歳以上 70 歳未満の個人(回答2万人)を対象に行った調査によると、幸福感に与える影響力において、健康、人間関係に次いで、「自己決定」が強い影響を与えているという結果が報告されている。(「幸福感と自己決定―日本における実証研究」RIETI Discussion Paper Series 18-J-026)この調査では、自己決定は、自分の意思で進学する大学や就職する企業を決めたか否かという質問から導きだされている。つまり、外部からの干渉を受けずに主体的に意思決定をする人は、幸福度が高いということである。
 この結果からは、先に示した公認会計士個人の生き方が、幸福度を上げる生き方につながることを示唆しているといえるのではないだろうか。
 これから公認会計士やその他の会計プロフェッションをめざすみなさんには、ぜひ、独立性を備えた人として、幸福な人生を送っていただきたいと心から願っている。

牟禮 恵美子(むれい えみこ) 青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科准教授。
神戸大学経営学部卒業。公認会計士。中央青山監査法人にて法定監査、上場支援、環境報告書作成支援などの業務に従事。 兵庫県立大学大学院会計研究科特任准教授・准教授を経て2012年4月より現職。

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