青山学院大学大学院 会計プロフェッション研究科 GSPA
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教員リレーエッセイ Vol.1(2012.1.10)

公監査・公会計プロフェッションの誕生
―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―

青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科 教授(当時)
鈴木 豊

 国・自治体・公的機関の公会計・公監査の中心概念を識別すべき重要性は、民間企業会計と財務諸表監査と、公会計・公監査の目的とその担い手となるべき公会計・公監査プロフェッショナルのミッションと責任の区別を確固として認識するためであり、このことによって国民・市民・納税者の期待と合致することとなる。中心概念は、次のとおりである。すなわち、公会計の中心概念は、①パブリックアカウンタビリティの履行、②世代間の衡平性の追求、③業績の測定と水準の維持目的である。①は、求められるアカウンタビリティが、企業会計に求められるものよりも、会計処理責任・開示責任の質と量に格段の差異があること、②は、公的部門に投入される税金・公金の負担者が、現世代か将来世代かの厳格な区別が求められること、③は、財務・法規準拠性・行政サービス成果の測定及び維持のための情報提示に資することである。公監査の中心概念は、①厳格な独立性の保持、②パブリックアカウンタビリティの履行、③公的保証目的である。これらの諸要素を包括する公会計・公監査の担い手となるべきプロフェッショナルは、公会計基準とともに公監査基準のGAASとの識別を完全なものとする必要がある。
 そこで、この公監査基準が、アメリカではGAGAS(一般に公正妥当と認められる政府監査基準)として確立し、更に国際基準として標準化されつつあるが、これが2011年8月に第7次改訂基準が公表された。ここから何を学ぶべきかを示すと次のとおりである。
「イエローブック(政府監査基準)改訂から学ぶべき10カ条の識別」
(1) 第7次改訂の意義
 アメリカ政府監査基準(通称イエローブック)が、1972年設定以来第7回目の改訂基準を8月に公表した。このような改訂をするその意味は、公会計と公監査の基準は、常に社会的・行政的・国民的に動き、変化し、生きていることへの対応であることを識別すべきである。
(2) 改訂の手続と設定主体の意味
 この改訂のために、連邦(国)レベル、州・地方(自治体)レベルの関係者、学識経験者、実務家、経済関係者等、毎改訂次に20数名の委員によって1~2年をかけてあらゆる検討を加えており、設定主体の独立性と研究・調査の客観的立場を識別すべきである。
(3) 改訂内容の基底
 今回の改訂の基本方向は、より政府監査基準を、公監査基準としての精微化と客観性について厳密に追求する姿勢そのものである。その意味は、一般基準・財務監査基準・証明業務基準・業績監査基準の共通的・個別的基準について、要求基準(must)の厳格適用の明確化と要請基準(should)の適用可能性を明確化することによって、政府監査人の任務と責任を明確化していることを識別すべきである。
(4)独立性の基準の厳格性と明確性の要求
 公監査の最もその特質を維持すべき基準は、独立性基準と外部監査性基準であるという基本認識を、更に精密化した改訂である。改訂基準では、外部利用者目的との関連において外部監査性を強めた定義をとっている。
(5)GAGASの適用可能性の要求
 一般に公正妥当と認められる政府監査基準(GAGAS)の識別と適用可能性の要件を、改訂基準では厳格に求めている。その意味は、GAGASによって国民・市民・納税者へ公監査の品質が確保されるべきことを識別すべきである。
(6)3E+2Eの意味
 前改訂時より、既に業績(行政成果)監査に関連して3E(経済性・効率性・有効性)基準から5E基準への展開が求められ、今次改訂では、特に+2EのEquity(公平性)とEthics(倫理性)の明確化が求められた。倫理性では、客観性、平等性、公僕性の要求を意味するものとして強い識別が求められる。
(7) 財務監査基準
 財務諸表及び財務関連監査の基本的要求事項は、GAASに求められる。すなわち、国際監査基準で求められる水準と同じ厳格性であることを識別すべきである。
(8) 証明業務基準
 公監査たる政府監査の保証水準は、その公監査目的によって大きく異なるものであり、それ故、公監査に元来求められている公的保証を、特に職業監査人が公監査を実施する場合に、任務と責任の範囲の限定で重要である。それ故、公監査目的によってレビュー業務、合意された手続業務、直接報告業務の客観性と正確な適用が求められることを識別すべきである。
(9) 業積公監査基準と業績公監査
 政府監査たる公監査のGAGASとの極めて特徴的な相違は、業績公監査である。GAGASでは、業績監査は、業績公監査性を第一義的に求めており、業績公監査においてもアサーションすなわち二重責任性の確立程度によっては、証明業務基準の適用となる。それ故、業績公監査と業績証明業務との正確な区分を識別すべきである。
(10) 国際公監査基準と日本の公
   監査基準
 GAGASの一般に公正妥当と認められる公監査基準としての国際的標準化への地歩は、着実に進められている。すなわち国際公会計基準(IPSAS)の設定と同様に、国際公監査基準の設定の準備が進められつつあり、また国際監査基準内における公的部門への適用の考え方もGAGASが基底にあることは明瞭である。

 公会計人・公監査人は、パブリックアカウンタビリティの履行者であり、これにより国民・市民・納税者への税金・公金支出の信頼性の公的保証人となる。このことによって、国民・市民・納税者から信頼される公会計・公監査のプロフェッショナルが誕生し、現在おきつつある国民・市民・納税者のエクスペクテーションギャップを解消するプロフェッションが機能を果すべき時がきているのである。


〔参考文献〕
(1)GAO, Government Auditing Standards, 2011 Internet Version, 2011.Aug,pp.9-14.
(2)拙稿「地方公共団体の公会計・公監査改革の論点」地方財務協会編『地方財政』, 2011. 5. pp.4-16.
(3)拙稿「業績公監査と財務・法規準拠性公監査の連関」税務経理協会編『税経通信』, 2011. 11. pp.154-161.
鈴木 豊(すずき ゆたか) 青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授。
明治大学大学院商学研究科博士課程修了、博士(経営学)。公認会計士・税理士。会計大学院協会理事長、公認会計士試験委員(租税法)、日本公認会計士協会「公会計委員会」委員長、内閣府・行政刷新会議民間評価者、総務省「今後の新地方公会計の推進に関する研究会」座長等を歴任。

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