青山学院大学大学院 会計プロフェッション研究科 GSPA
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教員リレーエッセイ Vol.7(2017.10.23)

会計の新時代にみる会計プロフェッションの可能性
―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―

青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科長・教授
小西 範幸

【会計プロフェッションの機会とリスク】
 会計に求められる機能と役割が増大かつ多様化するのに伴い、会計情報の開示領域が拡張してきているのと同時に、会計プロフェッション(会計・監査・税務領域の専門職)の活躍できる領域が格段に広がってきている。それは、会計プロフェッションに対して、高度で広範囲な専門知識と高い職業倫理観が求められていることに他ならない。
 21世紀の会計プロフェッションにとって、これをポジティブなリスク、つまり業務拡大の機会と捉えるのか、ネガティブなリスク、つまり業務上のリスクが高まったと捉えるのかは、学び続ける姿勢の有無によるものと解され、会計プロフェッションとしての資質に直結するように思われる。ここでは、幾つかのキーワードを取り上げて、会計の新時代を検討することで、会計プロフェッションの高い可能性について言及することとする。
【価値創造プロセスを示す6つの「資本」】
 グローバルリスクに晒されている現代の経済社会では、企業は多種多様なリスクを識別・評価できるように会計情報を開示して、価値創造プロセスに係わるビジネスモデルを明確化していかなければならない。企業の価値創造プロセスは、財務資本だけに限らず、加えて製造資本、知的資本、人的資本、自然資本および社会関連資本に分類される6つの「資本」の増減または移転によって示すことができるようになる。それには、アウトプットに加えてアウトカムでの評価が必要となる。
 アウトカムは、企業の事業活動とアウトプットによってもたらされる「資本」の内部的および外部的な帰結である。内部的な帰結とは、例えば、従業員のモラルや組織の評判(レピュテーション)であり、一方、外部的な帰結とは、例えば、製品・サービスから得る顧客の便益、雇用や納税による地域経済への貢献、および環境への影響である。帰結には、「資本」の正味の増加がもたらされることによって価値が創造されるポジティブなものと、「資本」の正味の減少がもたらされることによって価値が減少または毀損されるものがある。
【リスクマネジメントと統合報告書】
 21世紀に求められている会計では、広範なステークホルダーを意識したサステナビリティ情報の積極的な開示が要求されている。その開示のためには、リスクマネジメントの強化が不可欠であり、経済、社会および環境に係わるパフォーマンスとリスクを関連づけて、当該リスク評価プロセスと会計情報の有機的な結合を促さなければならない。
 サステナビリティは、幾つかの側面から説明することができ、例えば、将来に亘ってのキャッシュインフローの可能性を現在において有している場合は、その企業はサステナビリティがあると評される。サステナビリティには、このような経済的な側面のほかに、社会貢献活動や従業員の労働条件の改善に対する取り組みなどの社会的な側面、そして自然エネルギーおよびリサイクルの活用や二酸化炭素排出規制による自然環境保護活動などの環境的な側面が加わる。したがって、会計には、トリプルボトムラインと称される経済的、社会的および環境的な側面からのパフォーマンスの評価が求められるようになる。
 財務諸表は、経済的な側面からのパフォーマンス評価を行ったものである。これに対して、CSR(企業の社会的責任)報告書は社会的な側面からパフォーマンス評価を行ったものであり、環境報告書は環境的な側面からパフォーマンス評価を行ったものである。個々の報告書では、サステナビリティ情報が十分に提供できていないので、これらのサステナビリティ情報を統合した報告書、すなわち統合報告書が必要となる。
【サステナビリティ情報とKPI】
 サステナビリティ会計基準審議会(SASB)では、米国の公開企業が米国証券取引委員会(SEC)向けに提出するForm10-K等の年次報告書において、重要なサステナビリティ情報の開示を行うための概念フレームワークと会計基準を公表して、79の業種別の主要業績評価指標(KPI)を定めて、財務諸表とともに開示することを目指している。SASBは、持続可能性のある企業では、長期的価値創造が行われ、事業活動の社会および環境への影響が説明できるようにビジネスリスクが管理されていると考えている。
 KPIは、財務諸表とアウトプット/アウトカムを結合させて、意思決定に必要な情報を、主要な価値創造要因を表す数値的データ(メトリック)として提供するものである。KPIによって、一定の戦略に基づき展開される価値創造プロセスを、その結果であるキャッシュフローと結び付けを可能にすることを通して、経営活動の実態への洞察力を深め、企業の将来を見通す手掛かりを与えることを可能にする。
【国際的な会計の新動向】
 財務諸表だけでは、企業の長期的な価値創造に寄与するすべての事象を必ずしも捉えられていない。帳簿価額は、通常、市場価値とは同じではなく、その市場価値は、環境、社会、人的資本、並びにコーポレート・ガバナンスの管理に起因し、これらによって著しく毀損される可能性がある。したがって、これらすべての重要な機会とリスクについての意思決定者の理解を高めるサステナビリティ情報が必要であるため、会計情報の開示は財務諸表の範囲を超えて行われていかなければならない。これらの会計情報は、従前の評価を確認または修正する際に役立つ確認価値および過去と現在の事象が将来キャッシュフローに与える影響を評価する際に役立つ予測価値の両方を有している。そのため、過去のパフォーマンスを評価し、将来の計画や意思決定を支援するために利用することができる。
 国際会計基準審議会(IASB)では、国際統合報告評議会(IIRC)、グローバル・リポーティング・イニシアティブ(GRI)、カーボン・ディスクロジャー・プロジェクト(CDP)、気候変動情報開示基準審議会(CDSB)との連携を保ちながら、サステナビリティ情報の開示を視野に入れた「コーポレートレポート」の公表に向けた検討を始めていて、英国では、既に「戦略報告書」としての公表が要求されている。国際的な会計の新動向とそれらを取り巻く経済・経営環境に、会計プロフェッションの可能性を感じずには入られない。

小西 範幸(こにし のりゆき) 青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科長・教授。博士(経営学:南山大学)。
イリノイ大学国際会計教育センター客員研究員、岡山大学大学院組織経営専攻長・教授などを経て2009年より現職。
国際会計研究学会理事、科学研究費委員会審査委員、公認会計士試験委員など歴任。 小西範幸編著[2016]「リスク情報の統合開示-統合報告にみる新しい財務報告の視座-」『経済経営研究』日本政策投資銀行 設備投資研究所、Volume36 Number7など。

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