教員リレーエッセイ Vol.10(2021.02.15)
半歩前へ、そしてプロフェショナルに!
―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―
元青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科 特任教授
吉田 修己
1 知識・技術のGive&Take
近年、会計プロフェッションが職務とする専門領域は、経済取引の複雑化や、企業活動のグローバル化等の影響を受けて、会計基準や税務法規も複雑化、高度化の一途を辿っている。筆者が実務に携わることとなった時代は、1人のプロフェショナルが(相当の努力は要するものの)対象とするかなりの領域の専門知識を1人でカバーすることができ、またそれができてこそ真のプロフェショナルと評価されていたように思う。
しかしながら、対象領域が複雑化、高度化し、かつ広範囲になってくると、もはや1人の専門家が多くの領域をカバーすることが困難となり、特定の領域に特化したプロフェショナルがネットワークを形成して、専門知識や技術等のGive & Takeを活用していかないと、社会からの期待に応えることが困難になって来たと思われ、実際に現状の大規模会計事務所ではそのような専門家集団を形成していると思う。
それではそのようなネットワークの一員となり、構成員として認知されるためには何が必要であろうか? Give & Takeとは、与えるものと与えられるものが均衡してこそ初めて成り立つ関係であるから、他の専門家に提供できる「Give」の領域を持たずに、いつも他の専門家が得意とする領域の知識を「Take」するだけでは、ネットワークの一員とは認められないであろう。「Give」を持たずにネットワークに参加する者はセカンドティアの地位に甘んずるよりない。真のプロフェショナルを目指すのであれば、他の専門家に「Give」できる自分なりの得意分野を磨くことであろう。勿論、会計プロフェッションとして当然に社会から期待されるレベルの知識経験は持っておかなければならないが、真のプロフェショナルと称されるにはプロフェショナルのGive & Takeのネットワークに参加でき、自分の得意分野については他のプロフェショナルから頼られる存在となることが必要である。
2 師匠を探す
そうは言っても、いきなり特定領域の専門家になれるわけではない。まずは、所属する組織の中で目標とすべき先輩を見つけて真似をすることから始めるよりないであろう。私の言葉で言えば、良い師匠、それも1人ではなく複数の師匠を探し出し、それぞれの優れた能力を参考にさせてもらうことではないかと思う。勿論、反面教師的な師匠の場合もあろうが、要はこうなりたい、あるいはこうはなりたくないと思う目標を見つけることである。
私の場合も、いろいろな分野でそれぞれに右に出る者がない先輩を見つけて、真似をすることから始めた。真似をすることをプロフェショナルらしくないと思う方もいるかもしれないが、私は、専門職業はある意味、徒弟制度的な組織が最もその育成に適していると考えている。現在の社会で徒弟制度というと時代錯誤と思われるかもしれないが、これはと思う師匠を見つけてその技や手法を学び、時には盗んで自分のものとし、師匠を超える存在を目指すのである。そして、いつの日か自分が師匠として目指されるよう精進していくという連鎖によって、プロフェショナルの世界が形成されるのではないかと思う。
3 半歩前へ
これと選んだ師匠から学ぶことは貴重かつ有用であるが、当然に自助努力が伴わなければ専門家として認められるものではない。自助努力を促す1つの方法は、常に他のプロフェショナルの半歩前を目指すことではないかと思う。これは、例えば新しい会計基準や技術・技法等について他のプロフェショナルに先駆けて理解を深め、当該事項について尋ねられたら、的確な回答ができる存在になることである。つまり「あの人に聴けば判る」というGiveを持つことである。いつも尋ねられる存在になると、その立場を維持するために常に先駆けて学ぶ姿勢、モチベーションが付いてくるようになるであろうし、自信にもなるであろう。と言っても、専門家同士の間で一歩先んじるのは相当に大変なことである。そこでほんの少しでも先にという意味でまずは半歩なのである。
この半歩前を特定分野において、一歩前、二歩前と進めて行けば、専門家のGive&Takeのネットワークの中で確たる存在となることもできるであろうし、そのような努力、競争こそが専門家のレベルを上げていく1つの方法ではないかと思う。
4 社会への貢献
専門家である以上、高度な専門知識や技術の習得に努めなければならないが、知識や技術を磨けばそれで良いというものではない。専門知識は社会のため、中でもその専門職業に課せられた公共の目的に資するように利用して初めて評価されるものである。特定の企業や個人のみを利するような知識や技術の使い方は、公益に反するものであり、社会にとっても当該専門職業団体にとってもリスクをもたらすものでしかない。スキル(専門知識)と倫理は専門職業の両輪であることを肝に銘じておくべきであろう。
幕末に来日して長崎大学医学部の前身となる医学所を設立したヨハネス・ポンぺは、次のような言葉を残している。
「医師は自らの天職をよく承知していなければならぬ。ひとたびこの職務を選んだ以上、もはや医師は自分自身のものではなく。病める人のものである。もしそれを好まぬなら、他の職業を選ぶがよい。」
このポンペの言葉の「医師」を公認会計士や税理士に、「病める人」を「社会」置き換えてみてはどうであろうか?
公認会計士や税理士を目指した方々は、それらの職業が果たす社会貢献の一翼を担おうとの志を持って臨まれたものと思う。社会に貢献し、依頼人からの信頼を獲得し続けるためには、不断の努力が必要であり、容易な道ではないかもしれないが、これほど遣り甲斐を実感できる職業はそうはないと思う。また公認会計士や税理士の職業は、国内のみならずグローバルにも活躍と貢献の場を広げつつ、異文化の中で自分を磨くこともできる。是非とも公認会計士や税理士という職業を楽しんでいただきたいと思う。
そして当初の志を忘れずに、社会や依頼人から信頼される真のプロフェショナルになっていただきたいと思う。
近年、会計プロフェッションが職務とする専門領域は、経済取引の複雑化や、企業活動のグローバル化等の影響を受けて、会計基準や税務法規も複雑化、高度化の一途を辿っている。筆者が実務に携わることとなった時代は、1人のプロフェショナルが(相当の努力は要するものの)対象とするかなりの領域の専門知識を1人でカバーすることができ、またそれができてこそ真のプロフェショナルと評価されていたように思う。
しかしながら、対象領域が複雑化、高度化し、かつ広範囲になってくると、もはや1人の専門家が多くの領域をカバーすることが困難となり、特定の領域に特化したプロフェショナルがネットワークを形成して、専門知識や技術等のGive & Takeを活用していかないと、社会からの期待に応えることが困難になって来たと思われ、実際に現状の大規模会計事務所ではそのような専門家集団を形成していると思う。
それではそのようなネットワークの一員となり、構成員として認知されるためには何が必要であろうか? Give & Takeとは、与えるものと与えられるものが均衡してこそ初めて成り立つ関係であるから、他の専門家に提供できる「Give」の領域を持たずに、いつも他の専門家が得意とする領域の知識を「Take」するだけでは、ネットワークの一員とは認められないであろう。「Give」を持たずにネットワークに参加する者はセカンドティアの地位に甘んずるよりない。真のプロフェショナルを目指すのであれば、他の専門家に「Give」できる自分なりの得意分野を磨くことであろう。勿論、会計プロフェッションとして当然に社会から期待されるレベルの知識経験は持っておかなければならないが、真のプロフェショナルと称されるにはプロフェショナルのGive & Takeのネットワークに参加でき、自分の得意分野については他のプロフェショナルから頼られる存在となることが必要である。
2 師匠を探す
そうは言っても、いきなり特定領域の専門家になれるわけではない。まずは、所属する組織の中で目標とすべき先輩を見つけて真似をすることから始めるよりないであろう。私の言葉で言えば、良い師匠、それも1人ではなく複数の師匠を探し出し、それぞれの優れた能力を参考にさせてもらうことではないかと思う。勿論、反面教師的な師匠の場合もあろうが、要はこうなりたい、あるいはこうはなりたくないと思う目標を見つけることである。
私の場合も、いろいろな分野でそれぞれに右に出る者がない先輩を見つけて、真似をすることから始めた。真似をすることをプロフェショナルらしくないと思う方もいるかもしれないが、私は、専門職業はある意味、徒弟制度的な組織が最もその育成に適していると考えている。現在の社会で徒弟制度というと時代錯誤と思われるかもしれないが、これはと思う師匠を見つけてその技や手法を学び、時には盗んで自分のものとし、師匠を超える存在を目指すのである。そして、いつの日か自分が師匠として目指されるよう精進していくという連鎖によって、プロフェショナルの世界が形成されるのではないかと思う。
3 半歩前へ
これと選んだ師匠から学ぶことは貴重かつ有用であるが、当然に自助努力が伴わなければ専門家として認められるものではない。自助努力を促す1つの方法は、常に他のプロフェショナルの半歩前を目指すことではないかと思う。これは、例えば新しい会計基準や技術・技法等について他のプロフェショナルに先駆けて理解を深め、当該事項について尋ねられたら、的確な回答ができる存在になることである。つまり「あの人に聴けば判る」というGiveを持つことである。いつも尋ねられる存在になると、その立場を維持するために常に先駆けて学ぶ姿勢、モチベーションが付いてくるようになるであろうし、自信にもなるであろう。と言っても、専門家同士の間で一歩先んじるのは相当に大変なことである。そこでほんの少しでも先にという意味でまずは半歩なのである。
この半歩前を特定分野において、一歩前、二歩前と進めて行けば、専門家のGive&Takeのネットワークの中で確たる存在となることもできるであろうし、そのような努力、競争こそが専門家のレベルを上げていく1つの方法ではないかと思う。
4 社会への貢献
専門家である以上、高度な専門知識や技術の習得に努めなければならないが、知識や技術を磨けばそれで良いというものではない。専門知識は社会のため、中でもその専門職業に課せられた公共の目的に資するように利用して初めて評価されるものである。特定の企業や個人のみを利するような知識や技術の使い方は、公益に反するものであり、社会にとっても当該専門職業団体にとってもリスクをもたらすものでしかない。スキル(専門知識)と倫理は専門職業の両輪であることを肝に銘じておくべきであろう。
幕末に来日して長崎大学医学部の前身となる医学所を設立したヨハネス・ポンぺは、次のような言葉を残している。
「医師は自らの天職をよく承知していなければならぬ。ひとたびこの職務を選んだ以上、もはや医師は自分自身のものではなく。病める人のものである。もしそれを好まぬなら、他の職業を選ぶがよい。」
このポンペの言葉の「医師」を公認会計士や税理士に、「病める人」を「社会」置き換えてみてはどうであろうか?
公認会計士や税理士を目指した方々は、それらの職業が果たす社会貢献の一翼を担おうとの志を持って臨まれたものと思う。社会に貢献し、依頼人からの信頼を獲得し続けるためには、不断の努力が必要であり、容易な道ではないかもしれないが、これほど遣り甲斐を実感できる職業はそうはないと思う。また公認会計士や税理士の職業は、国内のみならずグローバルにも活躍と貢献の場を広げつつ、異文化の中で自分を磨くこともできる。是非とも公認会計士や税理士という職業を楽しんでいただきたいと思う。
そして当初の志を忘れずに、社会や依頼人から信頼される真のプロフェショナルになっていただきたいと思う。
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