教員リレーエッセイ Vol.8(2018.10.25)
第四次産業革命に伴う働き方の変化
―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―
青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科 准教授
山口 直也
最近話題となっているものに、AI(artificial intelligence(人工知能))の進化による労働代替の議論が挙げられる。これまで人が担ってきた業務が、AIの進化によってどの程度自動化されるのか、その結果、人による労働のあり方がどのように変化するのかについて、関心が高まっている。
多くの人がこのことに関心を寄せるきっかけとなったのが、オックスフォード大学のCarl Benedikt FreyとMichael A. Osborneの両氏が2013年に公表した“The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation ?”という論文であろう。
本論文では、自動化の障壁となる9つの仕事特性を抽出し、702種類の職種について、各職種に必要なスキルはどのようなもので、そのスキルをコンピューターがどれだけ自動化できるかを調べ、自動化される可能性を推計している。分析の結果、米国における全雇用の約47%が、今後10〜20年間に自動化されるおそれが高いカテゴリーに分類されると結論付けている。また、輸送・物流に関連するほとんどの労働者は自動化のリスクにさらさらされるが、サービス業における雇用のかなりの部分も自動化のリスクにさらされるとし、将来的に労働市場で生き残るためには、創造的スキル(creative skills)と社会的スキル(social skills)を獲得する必要があると論じている。
本論文では、702種類の職種について、自動化される可能性に応じて、自動化されるリスクが最も低い職業(1位)から最も高い職業(702位)まで順位付けを行っている。会計分野については、“Bookkeeping, Accounting and Auditing Clerks”という名称で671位に順位付けされており、自動化される可能性は98%と推計している。
一方、AIの進化を含む、近年におけるめざましい技術革新は、第四次産業革命と位置付けられている。世界経済フォーラムの創設者であり会長であるKlaus Schwab氏が著した“The Fourth Industrial Revolution”によれば、第四次産業革命は今世紀に入ってから始まったデジタル革命の上に成り立っており、これを特徴づけるのが、これまでとは比較にならないほど偏在化し、モバイル化したインターネット、小型化し強力になったセンサーの低価格化、AI、機械学習であるとしている。
本書では、第四次産業革命が経済、企業、国家と世界、社会、個人に及ぼす影響について論じている。このうち、経済に及ぼす影響として、成長と雇用の二つの側面を取り上げている。雇用については、新たな技術が労働の性質を劇的に変えるとした上で、John Maynard Keynesが1931年に発した、「労働力の新たな活用法を見つけるペースを上回る労働力の効率的利用法の発見」を原因とする広範囲の技術的失業に関する警句をもとに、技術が雇用にもたらす効果には「破壊効果(技術がもたらす混乱と自動化は労働の代わりに資本を用いる)」と「資本化効果(破壊効果は新たな製品やサービスに対する需要を増加させ、新たな職業、ビジネス、さらに産業の創出につながる)」という二つの競合効果があるとし、多くの産業と職種で、今後数十年間に労働代替的なイノベーションの波が発生するだろうと論じている。
また、第四次産業革命以外に、人口圧力、地政学的シフト、新たな社会的・文化的規範といった非技術的要素も契機となって、新たな役割や職業が生み出され、将来的には、資本以上に才能が重要な生産要素になり、イノベーションや競争力、成長の大きな妨げとなるのは資本の有無ではなく、熟練労働力の不足になる可能性があるとしている。
さらに、才能が重要な生産要素となることから、第四次産業革命の下での「高スキル」の意味合いを再考しなければならないとしている。具体的には、熟練労働に関する従来の定義は、「高度教育や専門教育の存在」と、「職業や専門分野内で定義された一連の能力」に依存していたが、高まる技術変化の速度を考えると、第四次産業革命で要求される労働者の能力とは、継続的適応と多様な状況下での新スキルとアプローチの習得であろうと論じている。
両者の議論に共通するのは、デジタル技術の飛躍的な発展に伴い、労働のあり方が今後、劇的に変化するであろうということである。Frey=Osborne論文では、会計業務について自動化される可能性が非常に高いとしているが、実際に、会計監査の領域においては、AIやビッグデータを活用しようという動きが徐々に広がっている。
監査法人トーマツは、「オーディット・アナリティクス」と呼ぶビッグデータを活用したシステムを開発し、不正リスクの早期発見につなげるために活用している(日本経済新聞朝刊2016年12月22日付)。新日本監査法人も、企業会計の異常値をAIが検出するシステムを開発した(日本経済新聞朝刊2016年11月21日付、2017年11月6日付)。
今後、デジタル技術の飛躍的な能力向上に伴い、会計監査をはじめ、会計の専門知識を必要とする各専門業務においても、デジタル技術の広範囲な活用が進むことは避けられない。会計プロフェッションが、会計を基礎とした高度な専門能力を有する人材として引き続き活躍していくためには、自らに求められる専門能力を絶えず再定義して、継続的な能力形成を図り、自ら「資本化効果」を生み出していくことが不可欠である。
多くの人がこのことに関心を寄せるきっかけとなったのが、オックスフォード大学のCarl Benedikt FreyとMichael A. Osborneの両氏が2013年に公表した“The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation ?”という論文であろう。
本論文では、自動化の障壁となる9つの仕事特性を抽出し、702種類の職種について、各職種に必要なスキルはどのようなもので、そのスキルをコンピューターがどれだけ自動化できるかを調べ、自動化される可能性を推計している。分析の結果、米国における全雇用の約47%が、今後10〜20年間に自動化されるおそれが高いカテゴリーに分類されると結論付けている。また、輸送・物流に関連するほとんどの労働者は自動化のリスクにさらさらされるが、サービス業における雇用のかなりの部分も自動化のリスクにさらされるとし、将来的に労働市場で生き残るためには、創造的スキル(creative skills)と社会的スキル(social skills)を獲得する必要があると論じている。
本論文では、702種類の職種について、自動化される可能性に応じて、自動化されるリスクが最も低い職業(1位)から最も高い職業(702位)まで順位付けを行っている。会計分野については、“Bookkeeping, Accounting and Auditing Clerks”という名称で671位に順位付けされており、自動化される可能性は98%と推計している。
一方、AIの進化を含む、近年におけるめざましい技術革新は、第四次産業革命と位置付けられている。世界経済フォーラムの創設者であり会長であるKlaus Schwab氏が著した“The Fourth Industrial Revolution”によれば、第四次産業革命は今世紀に入ってから始まったデジタル革命の上に成り立っており、これを特徴づけるのが、これまでとは比較にならないほど偏在化し、モバイル化したインターネット、小型化し強力になったセンサーの低価格化、AI、機械学習であるとしている。
本書では、第四次産業革命が経済、企業、国家と世界、社会、個人に及ぼす影響について論じている。このうち、経済に及ぼす影響として、成長と雇用の二つの側面を取り上げている。雇用については、新たな技術が労働の性質を劇的に変えるとした上で、John Maynard Keynesが1931年に発した、「労働力の新たな活用法を見つけるペースを上回る労働力の効率的利用法の発見」を原因とする広範囲の技術的失業に関する警句をもとに、技術が雇用にもたらす効果には「破壊効果(技術がもたらす混乱と自動化は労働の代わりに資本を用いる)」と「資本化効果(破壊効果は新たな製品やサービスに対する需要を増加させ、新たな職業、ビジネス、さらに産業の創出につながる)」という二つの競合効果があるとし、多くの産業と職種で、今後数十年間に労働代替的なイノベーションの波が発生するだろうと論じている。
また、第四次産業革命以外に、人口圧力、地政学的シフト、新たな社会的・文化的規範といった非技術的要素も契機となって、新たな役割や職業が生み出され、将来的には、資本以上に才能が重要な生産要素になり、イノベーションや競争力、成長の大きな妨げとなるのは資本の有無ではなく、熟練労働力の不足になる可能性があるとしている。
さらに、才能が重要な生産要素となることから、第四次産業革命の下での「高スキル」の意味合いを再考しなければならないとしている。具体的には、熟練労働に関する従来の定義は、「高度教育や専門教育の存在」と、「職業や専門分野内で定義された一連の能力」に依存していたが、高まる技術変化の速度を考えると、第四次産業革命で要求される労働者の能力とは、継続的適応と多様な状況下での新スキルとアプローチの習得であろうと論じている。
両者の議論に共通するのは、デジタル技術の飛躍的な発展に伴い、労働のあり方が今後、劇的に変化するであろうということである。Frey=Osborne論文では、会計業務について自動化される可能性が非常に高いとしているが、実際に、会計監査の領域においては、AIやビッグデータを活用しようという動きが徐々に広がっている。
監査法人トーマツは、「オーディット・アナリティクス」と呼ぶビッグデータを活用したシステムを開発し、不正リスクの早期発見につなげるために活用している(日本経済新聞朝刊2016年12月22日付)。新日本監査法人も、企業会計の異常値をAIが検出するシステムを開発した(日本経済新聞朝刊2016年11月21日付、2017年11月6日付)。
今後、デジタル技術の飛躍的な能力向上に伴い、会計監査をはじめ、会計の専門知識を必要とする各専門業務においても、デジタル技術の広範囲な活用が進むことは避けられない。会計プロフェッションが、会計を基礎とした高度な専門能力を有する人材として引き続き活躍していくためには、自らに求められる専門能力を絶えず再定義して、継続的な能力形成を図り、自ら「資本化効果」を生み出していくことが不可欠である。
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