教員リレーエッセイ Vol.12(2022.12.01)
論文を書く意義
―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―
青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科 教授
野口 浩
学生から、「論文を書く意義って何ですか?」とか、「なんのために論文を書かなくてはいけないのですか?」という質問を受けることがある。本稿は、それらの問いに対する筆者の回答である。筆者が税理士業を営んでいた時のエピソードを基にしてそれを伝えたい。
大学教員になる前に、約18年間税理士業を営んでいた。独立後10年くらい経った時に、あるクライアントが課税庁から厳しい税務調査を受けたことがあった。争点は、ホテルを所有して運営するR株式会社(以下、「R社」という)がホテルの壁を塗装した場合に、その費用が修繕費に該当するのか、それとも資本的支出であるのか、というものであった。
これは税務を行ううえで頻出する論点である。R社はその時に多額の所得を出していたので、それを修繕費としてその事業年度に全額損金として計上することを望んでいたが、修繕費もしくは資本的支出のどちらで処理すべきか、ということを壁の塗装が終わった頃にR社の経理部長から相談された。それを判断するためには、事実を確認してそれに関連する法令を調べる必要がある。
まず、①ホテルの壁の塗装についての具体的かつ正しい事実を把握する。次に、②別段の定めがあるものを除き、「当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額」を損金とするという法人税法22条2項二号の規定を見つけ出す。そして、③法人税法および租税特別措置法における別段の定めの有無を調べる。最後に、④資本的支出の意義を規定した法人税法施行令132条の内容を確認する。同条は、「当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額」もしくは、「当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測されるその支出の時における当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額」は、損金の額に算入しないと規定している。
R社の当該支出に関する事実を確認すると、その支出は修繕費の可能性が高いことが判明した。また、契約どおりにホテルの壁の塗装がなされて役務の提供をすでに受けており、金額も確定しているため、「債務の確定」の要件を満たしており、法人税法22条3項二号を根拠として原則的には損金となり得る。そして、法人税法および租税特別措置法において、修繕費に対する別段の定めはない。問題となり得るのは、法人税法施行令132条が定める資本的支出の解釈である。通達は法源ではないが、法人税基本通達にも目を通しておく必要がある。法人税基本通達7-8-1において、課税庁による資本的支出の解釈がなされているが、R社の当該支出は同通達が挙げた例示に直接あてはまらない。そこで裁判例を調べてみることとした。
筆者が主宰していた税理士事務所は、裁判例に関するデータベースをサブスクリプションで契約していたので、「修繕費」かつ「資本的支出」というワードをそのデータベースに入力して、裁判事例を探すと約80件ヒットした。その中からR社の当該支出と類似するケースが3件あったので、それぞれの裁判所による資本的支出に関する解釈を表にまとめてみた。
これらの一連の研究を行った後で、それを5枚のレポートにまとめて、R社に提出した。そしてそれを基に経理部で検討した結果、R社はホテルの壁の塗装に要した費用は、修繕費に該当して、法人税法22条3項二号により全額損金となるという決断に至り確定申告を行った。しかし、翌年、所轄税務署による税務調査を受けて、その費用が問題となったのである。R社は、それは修繕費に該当することを主張したが、国税調査官は資本的支出である旨の主張を行い、「資本的支出を認めてくれなければ所得を更正する」と強気な姿勢を崩さなかった。ところが、その後かなり時間が経った頃に当該調査官から連絡があり、R社が行ったホテルの壁の塗装費用を修繕費として損金計上することを認めるという結論となった。
これがそのエピソードのあらすじであるが、筆者がその5枚のレポートを書くプロセスは、論文を書くそれと類似している。そのプロセスとは、まず、事実を明らかにする。次に、それに関連する法令を調べて、法令の文言の解釈を行う。そして、裁判例を調べる。最後に、裁判所による解釈(いわゆる大前提)に事実(いわゆる小前提)をあてはめて結論を導き出す。
筆者はその時に学説を検討することをしなかったが、学説の研究も重要である。例えば、裁判において、当事者は自分の主張を裁判所に理解してもらって裁判官の支持を得るために、研究者が作成した意見書を裁判所に提出することがある。法律の文言の解釈に関する意見書は通常は論文の形を採る。裁判官は、それを読むことで心証を固めることもある。すなわち、学説が裁判官の判断に影響を与えるのである。
会計プロフェッション研究科の学生は、無料で裁判例のデータベースを使うことができる。また、青山学院大学の図書館や研究科の資料室には雑誌や書籍などの資料が豊富にあり、学説を深く研究することができる。研究環境はとても良いといえる。ところが、判決の内容を深く理解して、学説を集めてすべてを検討するためにはかなりの時間を要する。また、論理的に文章を書き進めることは非常に難しい。
しかし、論文の執筆が、会計プロフェッションとして実務の世界で働く場合に必ず役に立つ。また、論文を完成させることで論理的な思考方法が身に付き、会計プロフェッションとしての資質は必ず向上する。そこに論文を書く意義があると考える。
大学教員になる前に、約18年間税理士業を営んでいた。独立後10年くらい経った時に、あるクライアントが課税庁から厳しい税務調査を受けたことがあった。争点は、ホテルを所有して運営するR株式会社(以下、「R社」という)がホテルの壁を塗装した場合に、その費用が修繕費に該当するのか、それとも資本的支出であるのか、というものであった。
これは税務を行ううえで頻出する論点である。R社はその時に多額の所得を出していたので、それを修繕費としてその事業年度に全額損金として計上することを望んでいたが、修繕費もしくは資本的支出のどちらで処理すべきか、ということを壁の塗装が終わった頃にR社の経理部長から相談された。それを判断するためには、事実を確認してそれに関連する法令を調べる必要がある。
まず、①ホテルの壁の塗装についての具体的かつ正しい事実を把握する。次に、②別段の定めがあるものを除き、「当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額」を損金とするという法人税法22条2項二号の規定を見つけ出す。そして、③法人税法および租税特別措置法における別段の定めの有無を調べる。最後に、④資本的支出の意義を規定した法人税法施行令132条の内容を確認する。同条は、「当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額」もしくは、「当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測されるその支出の時における当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額」は、損金の額に算入しないと規定している。
R社の当該支出に関する事実を確認すると、その支出は修繕費の可能性が高いことが判明した。また、契約どおりにホテルの壁の塗装がなされて役務の提供をすでに受けており、金額も確定しているため、「債務の確定」の要件を満たしており、法人税法22条3項二号を根拠として原則的には損金となり得る。そして、法人税法および租税特別措置法において、修繕費に対する別段の定めはない。問題となり得るのは、法人税法施行令132条が定める資本的支出の解釈である。通達は法源ではないが、法人税基本通達にも目を通しておく必要がある。法人税基本通達7-8-1において、課税庁による資本的支出の解釈がなされているが、R社の当該支出は同通達が挙げた例示に直接あてはまらない。そこで裁判例を調べてみることとした。
筆者が主宰していた税理士事務所は、裁判例に関するデータベースをサブスクリプションで契約していたので、「修繕費」かつ「資本的支出」というワードをそのデータベースに入力して、裁判事例を探すと約80件ヒットした。その中からR社の当該支出と類似するケースが3件あったので、それぞれの裁判所による資本的支出に関する解釈を表にまとめてみた。
これらの一連の研究を行った後で、それを5枚のレポートにまとめて、R社に提出した。そしてそれを基に経理部で検討した結果、R社はホテルの壁の塗装に要した費用は、修繕費に該当して、法人税法22条3項二号により全額損金となるという決断に至り確定申告を行った。しかし、翌年、所轄税務署による税務調査を受けて、その費用が問題となったのである。R社は、それは修繕費に該当することを主張したが、国税調査官は資本的支出である旨の主張を行い、「資本的支出を認めてくれなければ所得を更正する」と強気な姿勢を崩さなかった。ところが、その後かなり時間が経った頃に当該調査官から連絡があり、R社が行ったホテルの壁の塗装費用を修繕費として損金計上することを認めるという結論となった。
これがそのエピソードのあらすじであるが、筆者がその5枚のレポートを書くプロセスは、論文を書くそれと類似している。そのプロセスとは、まず、事実を明らかにする。次に、それに関連する法令を調べて、法令の文言の解釈を行う。そして、裁判例を調べる。最後に、裁判所による解釈(いわゆる大前提)に事実(いわゆる小前提)をあてはめて結論を導き出す。
筆者はその時に学説を検討することをしなかったが、学説の研究も重要である。例えば、裁判において、当事者は自分の主張を裁判所に理解してもらって裁判官の支持を得るために、研究者が作成した意見書を裁判所に提出することがある。法律の文言の解釈に関する意見書は通常は論文の形を採る。裁判官は、それを読むことで心証を固めることもある。すなわち、学説が裁判官の判断に影響を与えるのである。
会計プロフェッション研究科の学生は、無料で裁判例のデータベースを使うことができる。また、青山学院大学の図書館や研究科の資料室には雑誌や書籍などの資料が豊富にあり、学説を深く研究することができる。研究環境はとても良いといえる。ところが、判決の内容を深く理解して、学説を集めてすべてを検討するためにはかなりの時間を要する。また、論理的に文章を書き進めることは非常に難しい。
しかし、論文の執筆が、会計プロフェッションとして実務の世界で働く場合に必ず役に立つ。また、論文を完成させることで論理的な思考方法が身に付き、会計プロフェッションとしての資質は必ず向上する。そこに論文を書く意義があると考える。
プロフェッショナルの仕事術
―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―
青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科 特任教授
石塚 洋一
私は、監査法人、税理士法人という会計プロッフェショナルファームで三十数年勤務しています。この四十年近いプロフェッショナルファームでの経験の中で考えたことを、現在会計プロフェッションとして仕事をされている方、これから会計プロフェッションを目指す方にお伝え出来たらと思います。
著名な歴史学者であった木村尚三郎氏は、「振り返れば未来」という本を執筆され、「過去を見つめ,そこから学ぶことによって,未来のあるべき姿が分かってくる」と述べています。次代の会計プロフェッションの方に自分の経験を、どれだけインパクトがあるものかわかりませんが、思いつくまま将来への期待を込めて書き出してみます。
1 大局的なモノの見方
宮本武蔵が剣術の極意を書いた「五輪書」に、「眼の付け様は、大きに広く付るなり。 観見の二つあり、観の目つよく、見の目よわく、遠き所を近く見、近き所を遠く見ること、兵法の専なり。」という一節があります。
見の目は、敵の剣の動きを見るクローズアップの目であり、観の目は、全体を俯瞰して見る目のことです。「観の目つよく、見の目よわく」とは、目先の細かいことよりも、大局的にモノをみる重要性を説いています。
会計は、企業等の活動を金銭の流れや、金銭価値の変動に着目して記述する技術とも言えます。何かの数字が1円でも合わないと気になってしまいますが、より本質的に重要なのは、企業の事業の目的、事業活動の状況全体をよく理解した上で、財務数値や申告調整の金額がそれらと整合的なのか考えることです。事業全体をよく理解すれば、この費用項目や申告調整の金額がこんなに大きいのはおかしいとか、この財務比率はこんな数値になるはずがないというような推測が働きます。
大局的に企業の財務・税務数値を事業内容とすり合わせて見ることによって、大きなミスを回避できると同時に、業務を効率的に行うことができます。是非、大局的な目をもって仕事にあたっていただきたいと思います。
2 専門性
会計プロフェッションは、職業的専門家であり、専門性は、会計プロフェッションの生命線です。会計士試験に合格した後の実務補修で、故武田昌輔先生の法人税法の講義があり、「皆さんは、専門家なんだから、税法の問題を質問された時、やさしい法人税というような類の本を見て、やさしい法人税に書いてありましたから、こうなりますというような回答をしたら失笑されます。つねに法令の条文にあたり、その意味を理解して、自分で判断して回答することが必要です。」という趣旨のお話をされました。
専門家が専門家であるゆえんは、自らの専門性にもとづいて自分の判断を示して、その判断に対して責任を持つことです。誰かの書いたものを参考にするのは構わないのですが、法令、会計基準や監査基準等の規範そのものにあたり、自分の判断をすることが必要です。
そして、専門性は、継続的にアップデートしないとすぐに劣化してしまいます。継続的に自分の専門性をメインテナンスし、かつ高めていくことが必要です。
3 国際性
私が公認会計士試験を受験した動機のひとつが、国際的な会計事務所で、外国の人たちと仕事をする機会を得たいということでした。2005年頃、私が所属していた国際会計事務所グループに主要国の税務サービスの責任者が集まって、全世界のメンバーファームの税務サービスの戦略を議論する委員会が設置され、十数年間その委員会に参加しました。参加国は、米国、英国、カナダ、ドイツ、オランダ、スウェーデン、オーストラリアと日本でした。多少英語を使って仕事をしていたし、最初苦労しても、慣れれば不自由なくコミュニケーションできるようになるだろうと思っていました。
しかし、思ったようには行きませんでした。議論に割って入ることができないのです。発言の順番があるわけではないので、誰かが発言したことに対して、また誰かが意見を言うという形で議論は続いて行きます。欧米人と1対1で、先方が、こちらが英語のノンネイティブであることを認識してくれるコミュニケーションとネイティブ(またはそれに準ずる人)の中に1人で放り込まれるような場でのコミュニケーションは全く違うと感じました。
英語の問題もありますが、何となく阿吽の呼吸で理解しあえる日本でのコミュニケーションの方式は邪魔になります。むやみやたらにしゃべればいいわけではないですが、適時に適切なことをしゃべれることが重要です。私は、最後まで自分が満足できるようなレベルで力を発揮できず、忸怩たる思いでした。
これから、このような壁を越えて活躍する会計プロフェッションが増えていくことを期待しています。
4 IT分野での技術革新
AIをはじめとするIT技術革新により自動車の自動運転が行われようとしている時代に、会計・税務の分野ではIT技術の利用が遅れているように思います。例えば、法人税法においては、22条4項という規定があり、益金・損金は、原則的に一般に公正妥当な会計処理の基準のもとづいて計算されることになっており、74条1項は、申告書は、確定した決算にもとづいて作成されることになっています。計算書類を作成する業務プロセスと申告書を作成する業務プロセスは、連動している訳ですが、ITツールの観点からは、両者は分断されています。
会計ソフトと申告書作成ソフトが別々に存在し、会計ソフトの中から申告調整情報をマニュアルで抽出して、申告書ソフトに入力するという業務プロセスは、ここ30年間変わっていません。両者が統合され、会計ソフトモジュールからAIが自動的に申告調整情報を自動的に抽出し、申告書作成ソフトモジュールに移すようなITソリューションができたら、税務コンプライアンス業務の生産性は、飛躍的に高まると思います。
会計ソフトを提供している会社には、公認会計士等の会計プロフェッションの方が創業した会社がいくつか存在します。そのような方たちには、是非、会計・税務分野でのITイノベーションを起こしてほしいと思います。
著名な歴史学者であった木村尚三郎氏は、「振り返れば未来」という本を執筆され、「過去を見つめ,そこから学ぶことによって,未来のあるべき姿が分かってくる」と述べています。次代の会計プロフェッションの方に自分の経験を、どれだけインパクトがあるものかわかりませんが、思いつくまま将来への期待を込めて書き出してみます。
1 大局的なモノの見方
宮本武蔵が剣術の極意を書いた「五輪書」に、「眼の付け様は、大きに広く付るなり。 観見の二つあり、観の目つよく、見の目よわく、遠き所を近く見、近き所を遠く見ること、兵法の専なり。」という一節があります。
見の目は、敵の剣の動きを見るクローズアップの目であり、観の目は、全体を俯瞰して見る目のことです。「観の目つよく、見の目よわく」とは、目先の細かいことよりも、大局的にモノをみる重要性を説いています。
会計は、企業等の活動を金銭の流れや、金銭価値の変動に着目して記述する技術とも言えます。何かの数字が1円でも合わないと気になってしまいますが、より本質的に重要なのは、企業の事業の目的、事業活動の状況全体をよく理解した上で、財務数値や申告調整の金額がそれらと整合的なのか考えることです。事業全体をよく理解すれば、この費用項目や申告調整の金額がこんなに大きいのはおかしいとか、この財務比率はこんな数値になるはずがないというような推測が働きます。
大局的に企業の財務・税務数値を事業内容とすり合わせて見ることによって、大きなミスを回避できると同時に、業務を効率的に行うことができます。是非、大局的な目をもって仕事にあたっていただきたいと思います。
2 専門性
会計プロフェッションは、職業的専門家であり、専門性は、会計プロフェッションの生命線です。会計士試験に合格した後の実務補修で、故武田昌輔先生の法人税法の講義があり、「皆さんは、専門家なんだから、税法の問題を質問された時、やさしい法人税というような類の本を見て、やさしい法人税に書いてありましたから、こうなりますというような回答をしたら失笑されます。つねに法令の条文にあたり、その意味を理解して、自分で判断して回答することが必要です。」という趣旨のお話をされました。
専門家が専門家であるゆえんは、自らの専門性にもとづいて自分の判断を示して、その判断に対して責任を持つことです。誰かの書いたものを参考にするのは構わないのですが、法令、会計基準や監査基準等の規範そのものにあたり、自分の判断をすることが必要です。
そして、専門性は、継続的にアップデートしないとすぐに劣化してしまいます。継続的に自分の専門性をメインテナンスし、かつ高めていくことが必要です。
3 国際性
私が公認会計士試験を受験した動機のひとつが、国際的な会計事務所で、外国の人たちと仕事をする機会を得たいということでした。2005年頃、私が所属していた国際会計事務所グループに主要国の税務サービスの責任者が集まって、全世界のメンバーファームの税務サービスの戦略を議論する委員会が設置され、十数年間その委員会に参加しました。参加国は、米国、英国、カナダ、ドイツ、オランダ、スウェーデン、オーストラリアと日本でした。多少英語を使って仕事をしていたし、最初苦労しても、慣れれば不自由なくコミュニケーションできるようになるだろうと思っていました。
しかし、思ったようには行きませんでした。議論に割って入ることができないのです。発言の順番があるわけではないので、誰かが発言したことに対して、また誰かが意見を言うという形で議論は続いて行きます。欧米人と1対1で、先方が、こちらが英語のノンネイティブであることを認識してくれるコミュニケーションとネイティブ(またはそれに準ずる人)の中に1人で放り込まれるような場でのコミュニケーションは全く違うと感じました。
英語の問題もありますが、何となく阿吽の呼吸で理解しあえる日本でのコミュニケーションの方式は邪魔になります。むやみやたらにしゃべればいいわけではないですが、適時に適切なことをしゃべれることが重要です。私は、最後まで自分が満足できるようなレベルで力を発揮できず、忸怩たる思いでした。
これから、このような壁を越えて活躍する会計プロフェッションが増えていくことを期待しています。
4 IT分野での技術革新
AIをはじめとするIT技術革新により自動車の自動運転が行われようとしている時代に、会計・税務の分野ではIT技術の利用が遅れているように思います。例えば、法人税法においては、22条4項という規定があり、益金・損金は、原則的に一般に公正妥当な会計処理の基準のもとづいて計算されることになっており、74条1項は、申告書は、確定した決算にもとづいて作成されることになっています。計算書類を作成する業務プロセスと申告書を作成する業務プロセスは、連動している訳ですが、ITツールの観点からは、両者は分断されています。
会計ソフトと申告書作成ソフトが別々に存在し、会計ソフトの中から申告調整情報をマニュアルで抽出して、申告書ソフトに入力するという業務プロセスは、ここ30年間変わっていません。両者が統合され、会計ソフトモジュールからAIが自動的に申告調整情報を自動的に抽出し、申告書作成ソフトモジュールに移すようなITソリューションができたら、税務コンプライアンス業務の生産性は、飛躍的に高まると思います。
会計ソフトを提供している会社には、公認会計士等の会計プロフェッションの方が創業した会社がいくつか存在します。そのような方たちには、是非、会計・税務分野でのITイノベーションを起こしてほしいと思います。
バックナンバー
Relay Essay Vol.13
- 『「インボイス制度とものの見方について」 ―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―』 望月 文夫 特任教授
- 『「国際租税法との出逢い」―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―』 大城 隼人 特任准教授
Relay Essay Vol.12
Relay Essay Vol.11
- 『「しっかり準備をしよう!」 ―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―』 蟹江 章 教授
- 『「AI普及後の未来における税理士の役割について」―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―』 駒宮 史博 特任教授
Relay Essay Vol.10
- 『「半歩前へ、そしてプロフェショナルに!」 ―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―』 吉田 修己 特任教授
- 『「カミュ『ペスト』を読んだ」―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―』 久持 英司 准教授
Relay Essay Vol.9
- 『「独立した人という生き方」―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―』 牟禮 恵美子 准教授
- 『「少子高齢化社会の相続税を考えよう」―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―』 金田 勇 特任教授
Relay Essay Vol.8
- 『「フィデューシャリーとしての自覚と誇りを」―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―』 重田 麻紀子 教授
- 『「第四次産業革命に伴う働き方の変化」―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―』 山口 直也 准教授
Relay Essay Vol.7
- 『「会計の新時代にみる会計プロフェッションの可能性」―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―』 小西 範幸 会計プロフェッション研究科長・教授
- 『「次は、仕事で会おう」―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―』 町田 祥弘 教授
Relay Essay Vol.6
Relay Essay Vol.5
Relay Essay Vol.4
Relay Essay Vol.3
Relay Essay Vol.2
Relay Essay Vol.1