教員リレーエッセイ Vol.7(2017.10.23)
次は、仕事で会おう
―次代の会計プロフェッションへのメッセージ―
青山学院大学大学院
会計プロフェッション研究科 教授
町田 祥弘
会計専門職大学院の入学式後の教員挨拶で、「ここにおられる先生方には、普段は、そう簡単に会うことはできない」、「この会計専門職大学院で、こうした錚々たる先生方に出会って、直接、教えていただき、お話を聴く機会が得られるなんて、とても恵まれている」といったことを度々話すことがある。
2005年に開設された会計専門職大学院は、倫理教育を基礎として、高度な知識と実践的な視点を取り入れた教育を標榜してカリキュラムが組まれた。各大学とも、会計大学院の設立に当たっては、各大学の会計教育を託すべく、各分野の一線で活躍する学者及び実務家を選任したのである。
私自身は、旧来の研究者養成型の大学院で学んだ経験しかないが、自分が修士課程の頃に、これだけのスタッフとこれだけのカリキュラムを備えた会計専門職大学院があったなら、どんな勉強をしていただろうか、と羨ましくさえ思う。
会計専門職大学院のメリットは何か、と考えたときに、公認会計士試験の短答式試験の一部科目免除であるとか、修士論文やリサーチ・ペーパーを提出することによる税理士試験の一部科目免除などが挙げられるかもしれない。もちろん、そうした卑近な利点も大事であろうが、おそらく最大の強みは、人との出会いではないだろうか。
いかなる講義も、知識であれば他の方法で代替的に獲得することも可能である。科目免除も同様かもしれない。しかしながら、上記のように、会計に関して学界、実務界をリードするような学者、実務家の先生方に出会い、学ぶことができることは、会計専門職大学院でしか得られない経験のはずである。
それは偶然ではない。会計専門職大学院は、わが国の将来の 有為な会計プロフェッションを養成する、具体的には、「平成30年頃までに公認会計士の総数を5万人程度の規模と見込むこと」「年間2,000名から3,000名が新たな試験合格者となることを目指すこと」(金融審議会 公認会計士制度部会 報告『公認会計士監査制度の充実・強化』、2002年12月17日)との国家プロジェクトとして創設された。そうした企図に対して意気に感じて、各大学の教員たる学者や、各監査法人等の実務家が、集って組成されたものだからである。多くの大学では、自らの大学に当時所属していた教員だけでは十分ではないとして、他の大学や監査法人から積極的に人材を集めたのである。会計専門職大学院では、そうした先生方に出会い、直接学ぶことができる。
とはいえ、会計専門職大学院に入学したからといって、簡単に公認会計士になれるわけではない。毎年の公認会計士試験において、会計専門職大学院出身の合格者は、合格者全体のうちの僅かを占めるばかりである。会計専門職大学院で行っている「倫理教育」や「事例研究」、さらには受験科目にないさまざまな講義科目等は、受験勉強の妨げとさえいえるほどの密度で提供されているといえよう。修了したからといって、短答式試験の一部科目の受験が免除されるに過ぎない。端的に言って、会計専門職大学院に入学することは、合格への近道ではないのである。
もちろん、会計専門職大学院は、公認会計士だけではなく、税理士や、企業内で働く高度な会計人等を養成することも目的としている。本学でも、社会人向けの「キャリアアップ・コース1年半制」や、すでに公認会計士・税理士の資格を有している人たち向けの「リカレント・コース1年制 」を設置したところである。公認会計士5万人構想が撤回され、今後も大きな制度改正が期待できないとすれば、今や「多様な会計人材の養成」に力点を置かざるを得ないともいえる。
会計専門職大学院にいかなる目的をもって入学して来ようとも、また、修了後に、いかなる道に進もうとも、ともにこの学び舎で学び、一定の同じ時間を過ごしたことには変わりはない。是非、この大学院で学んだことを活かして、それぞれの道で活躍してほしいと願っている。
同時に、修了式後の挨拶で、修了生たちにかける言葉がある。それが、本稿のタイトルに掲げた「次は、仕事で会おう」というものである。
実は、これは、冒頭の言葉と重ねて考えると、実践するのは非常に難しいことであることがわかる。修了生たちが、それぞれの仕事において責任ある仕事を任せられるようになり、会計や監査、税務の世界の第一線で活躍する会計専門職大学院の先生方と仕事の現場で会えるようになるには、相当の時間と、それ以上に、修了生たちの相当の研鑽が必要になるはずだからである。
それでも、われわれは、心からそれを期待している。実際に、すでに何人かの修了生たちとは、仕事の場で再会している。そんなときの嬉しさは例えようがない。どちらかといえば、教育者というよりも研究者寄りの傾向の強い私でさえ、そういうときには、教師冥利というものを感じるものである。
彼ら・彼女たちに、仕事で会おう、というためには、われわれも仕事の一線で「現役」として待っていなければならない。私自身、あと20年間、せめて退職するまでの間、自分は彼ら・彼女たちを待っていられるだろうか、と心配にもなる。
また、個人として会うのではなく、青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科の教授の立場で出会うには、この会計専門職大学院を存続させていかなくてはならないであろう。仕事の場で会うには、少々間に合わないものの、OB・OGとして、同窓会や「会計サミット」等のイベントに参加したり、あるいは、ひょっこり大学に顔を出したりする修了生たちのためにも、本研究科が、十全な形で役割を果たしていなければならない。
そして、久しぶりに会ったOB・OGには、やはり「次は、仕事で会おう」と言って送り出したい。次に会うまで、お互いが仕事に精励するためのモチベーションとするための言葉として。
2005年に開設された会計専門職大学院は、倫理教育を基礎として、高度な知識と実践的な視点を取り入れた教育を標榜してカリキュラムが組まれた。各大学とも、会計大学院の設立に当たっては、各大学の会計教育を託すべく、各分野の一線で活躍する学者及び実務家を選任したのである。
私自身は、旧来の研究者養成型の大学院で学んだ経験しかないが、自分が修士課程の頃に、これだけのスタッフとこれだけのカリキュラムを備えた会計専門職大学院があったなら、どんな勉強をしていただろうか、と羨ましくさえ思う。
会計専門職大学院のメリットは何か、と考えたときに、公認会計士試験の短答式試験の一部科目免除であるとか、修士論文やリサーチ・ペーパーを提出することによる税理士試験の一部科目免除などが挙げられるかもしれない。もちろん、そうした卑近な利点も大事であろうが、おそらく最大の強みは、人との出会いではないだろうか。
いかなる講義も、知識であれば他の方法で代替的に獲得することも可能である。科目免除も同様かもしれない。しかしながら、上記のように、会計に関して学界、実務界をリードするような学者、実務家の先生方に出会い、学ぶことができることは、会計専門職大学院でしか得られない経験のはずである。
それは偶然ではない。会計専門職大学院は、わが国の将来の 有為な会計プロフェッションを養成する、具体的には、「平成30年頃までに公認会計士の総数を5万人程度の規模と見込むこと」「年間2,000名から3,000名が新たな試験合格者となることを目指すこと」(金融審議会 公認会計士制度部会 報告『公認会計士監査制度の充実・強化』、2002年12月17日)との国家プロジェクトとして創設された。そうした企図に対して意気に感じて、各大学の教員たる学者や、各監査法人等の実務家が、集って組成されたものだからである。多くの大学では、自らの大学に当時所属していた教員だけでは十分ではないとして、他の大学や監査法人から積極的に人材を集めたのである。会計専門職大学院では、そうした先生方に出会い、直接学ぶことができる。
とはいえ、会計専門職大学院に入学したからといって、簡単に公認会計士になれるわけではない。毎年の公認会計士試験において、会計専門職大学院出身の合格者は、合格者全体のうちの僅かを占めるばかりである。会計専門職大学院で行っている「倫理教育」や「事例研究」、さらには受験科目にないさまざまな講義科目等は、受験勉強の妨げとさえいえるほどの密度で提供されているといえよう。修了したからといって、短答式試験の一部科目の受験が免除されるに過ぎない。端的に言って、会計専門職大学院に入学することは、合格への近道ではないのである。
もちろん、会計専門職大学院は、公認会計士だけではなく、税理士や、企業内で働く高度な会計人等を養成することも目的としている。本学でも、社会人向けの「キャリアアップ・コース1年半制」や、すでに公認会計士・税理士の資格を有している人たち向けの「リカレント・コース1年制 」を設置したところである。公認会計士5万人構想が撤回され、今後も大きな制度改正が期待できないとすれば、今や「多様な会計人材の養成」に力点を置かざるを得ないともいえる。
会計専門職大学院にいかなる目的をもって入学して来ようとも、また、修了後に、いかなる道に進もうとも、ともにこの学び舎で学び、一定の同じ時間を過ごしたことには変わりはない。是非、この大学院で学んだことを活かして、それぞれの道で活躍してほしいと願っている。
同時に、修了式後の挨拶で、修了生たちにかける言葉がある。それが、本稿のタイトルに掲げた「次は、仕事で会おう」というものである。
実は、これは、冒頭の言葉と重ねて考えると、実践するのは非常に難しいことであることがわかる。修了生たちが、それぞれの仕事において責任ある仕事を任せられるようになり、会計や監査、税務の世界の第一線で活躍する会計専門職大学院の先生方と仕事の現場で会えるようになるには、相当の時間と、それ以上に、修了生たちの相当の研鑽が必要になるはずだからである。
それでも、われわれは、心からそれを期待している。実際に、すでに何人かの修了生たちとは、仕事の場で再会している。そんなときの嬉しさは例えようがない。どちらかといえば、教育者というよりも研究者寄りの傾向の強い私でさえ、そういうときには、教師冥利というものを感じるものである。
彼ら・彼女たちに、仕事で会おう、というためには、われわれも仕事の一線で「現役」として待っていなければならない。私自身、あと20年間、せめて退職するまでの間、自分は彼ら・彼女たちを待っていられるだろうか、と心配にもなる。
また、個人として会うのではなく、青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科の教授の立場で出会うには、この会計専門職大学院を存続させていかなくてはならないであろう。仕事の場で会うには、少々間に合わないものの、OB・OGとして、同窓会や「会計サミット」等のイベントに参加したり、あるいは、ひょっこり大学に顔を出したりする修了生たちのためにも、本研究科が、十全な形で役割を果たしていなければならない。
そして、久しぶりに会ったOB・OGには、やはり「次は、仕事で会おう」と言って送り出したい。次に会うまで、お互いが仕事に精励するためのモチベーションとするための言葉として。
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